キミじゃないと、ダメなんだ

       〜かぐわしきは 君の… 9


     
幕 間



床下暖房の設備がないほどの、アパートの古さのせいでなく、
かと言って、エアコンを買えない経済的な問題もさておいて。
昨日今日は全国的に途轍もない寒波に覆われている列島なのだから、
この寒さは もはやしょうがない。
外から帰ったそのまま、
まずはと片付けものに着手していたブッダだったので、
板の間にては足元から這い寄ってた冷たさに、
すっかりとつま先を冷やしていた彼であり。
こたつの中でそれへ触れたことで、おおうと気がついたイエスが、
もうもうもうと、半分怒ったような態度のまま、
温まれ温まれと手で摩って差し上げて。
そのまま美味しいミルクティーを堪能し、
二人とも何とか人心地ついたのだけれども。

 「もう足は冷たくない?」
 「うん。ぽかぽかしてるよ?」

冷たかったところからぐんと勢い良く温まったからか、
いっそ熱いくらいだと。
目許をたわめて微笑う愛しい君なのへ、

 “わ…。//////////”

屈託がないとか無邪気だとか、
ブッダはいつも自分へ向けて言うけれど。

 “こんなときに嫋やかに微笑うキミだって…。///////”

慈愛の如来様だからったって、
その笑顔の儚さや柔らかさはどうなのと。
あまりに繊細で無防備なのが
危なっかしく思えて仕方がないイエスであるらしく。

 「〜〜〜。////////」
 「? イエス?」

肉薄な唇をぎゅうとすぼめ、目許を伏せがちにして
迷子の子犬みたいに視線をたゆたわせる彼なのへ。
こうまで間近なのだ、気づかぬブッダじゃあなくて。
畳へ手をつき、身を浮かせ、
どうしたの?と目顔で問いかけつつ、
少しでもと彼へと近づけば。
イエスの線の細いお顔がずんと間近になる。

 「…えっと。//////」

声をかけられたことで多少は鼻白んだものか、
玻璃玉のような透きようをした双眸に、
まつげの陰がすうと降り。
その翳りがまた、何とも言えぬ憂いと頼りなさを醸してやまぬ。
薄いまぶたにも陰が落ち、心許ない印象を強めており。
ねえ どうしたの?と、ますますのこと身を寄せたれば、

 「あの…、ね?///////」

やっとのこと、上がった視線に映った相手が
思いがけなく間近だったせいだろう。
えっ?と、はっとしたイエスだったが、

 「……ごめん。/////////」

あの、気にしないでと。
そっぽを向いてしまうのが、
ますますとブッダに案じさせてしまい、

 「ごめんじゃあ 判らないよ?」

ねえ、何かへ まだ怒ってるの?と、
ますますのこと身を乗り出して来たブッダの手が、
たまたま、何げなく投げ出されていたイエスの手へと触れた。
ちょんと掠めただけだったれど、
意識しまくりという状態にあったイエスへは、
胸が躍り上がるほどもの接触に他ならず。

 「あ…っ。////////」

はっとしたそのまま、ガバとお顔を上げたらば、
身を乗り出していた相手へ、
ますますのすぐ間近で顔を鉢合わせてしまって。

 「…あ。///////」
 「えっと。///////」

伏し目がちにされてた双眸が、
こうまでの間近でいきなりこちらの視線とかち合ったため、
そこはブッダも ぎくりと慄く。
教義のあれこれへならいざ知らず、
まだまだ発展途上の“こちら”に関しては。
物慣れて来たようでも、まだまだどこかで初々しい部分も多々あって。

 “うう…。////////”

荒ぶる豪傑が泰然とはらんでいるよな、剛の雄々しさはないまでも。
男らしい彫の深さをたたえた凛々しき顔容にて、
こうまで間近から真っ直ぐ見据えて来られれば。
こちらから追っていてこうなったという順番もどこへやら、
胸の奥にて何か甘いものが きょんとまざまざ跳ね躍り、
それが落とした波紋の広がる様のよに、
頬が見る見る赤くなるブッダであり。

 そして、

世話好きのしっかり者なはずが、
目と目が合った途端、
唇が落ち着かずに震えるほどの
そんな初々しいところを見せてくれたものだから。

 「あ…。////////」

そんな戸惑い、文字通りの目と鼻の先に展開されてしまっては。
彼をこそ愛おしいと想ってやまぬイエスとしては、
なみなみと抱え持つアガペーと同じほどの
大きな“特別”を捧げているお人の、
それはそれはピュアな反応だけに、

 「あ…あのあのっ、ごめんっ。/////////」

案じさせちゃってごめんね…と、
心持ちだけでも落ち着くよう、そのとば口でねじ伏せようとはしたものの。
そっちはダメだと判っていても…もう遅い。
もうすっかりと感触を覚えてしまった、
まろやかですべらかな頬へと手が伸びており。
手前に余った親指の先が、しっとり淡い緋色の口許を撫でていて。
あ…と震えて上下しかかったようなその口許が、
何をか言い出す前にと、
今度はこちらが身を乗り出していて。
大きく見張られていた深瑠璃色の双眸へ、
切なげな瞬きで囁きかけている。


   ねえ   ほしい。


イエスが わずかほど瞼をたわませて伝えれば、
ブッダの潤んだ双眸を縁取る、くっきり長いまつげが震え。
戸惑うように瞬くものの、
いやだと横へは振り切られないままなのでもあって。


  ああ、私ってばズルイよね。


君は優しいから、
私を傷つけたくはないと思うあまり
何をねだられても 拒めないのかも知れぬ。

 「……。」

手を延べてから…今になって それへ気づいて視線が揺らぎ、
頬に添えていた手を浮かせかかれば、

  “  …………え?/////”

それを追いかけるかのよに、するりと伸びて来た腕があって。
しかもしかも、
夜の帳の陰ならいざ知らず、
こんな時刻に、それも彼からなんてあり得ないこと。
脇を通って背へと伸ばされた両の手で、
しがみつく先、かいがら骨を探す気配があって。


  いいの?////////


含羞みに頬を染めつつ、双眸の潤みを深めつつ。
それでも見上げて来たお顔は、
初々しい潔さと まろやかな甘さで満ちており。
柔らかな肢体を抱きすくめつつ、
こちらからと迎えて触れた口許は、
ちょっぴりの緊張に強ばって、
一瞬 震えたような気もしたけれど。

 「あ、…んぅ、ん。////////」

咬み合ったところから、唇同士を互いに食み合っていて。
そのまま口角をくすぐるように、深く咥え込んでの、
相手の吐息の微熱を、舌先に掬いとって味わえば。
その甘さが染みたのか、
背へとしがみついてた手が、ぎゅうと切なく握られて。

 「んん…、あ…。/////////」

日常の挨拶という感覚で、既に親しみのあった自分と違い、
“口づけ”などという行為自体、
ブッダにしてみれば慣れのないものだったろに。
それでも怖じけることなく、
こんな突拍子もない折の欲求へまで応じてくれていて。
それだけでも報われすぎている至福を感じるイエスであり。

 「やぁ、ん…。/////////」

翻弄されてのこととはいえ、
甘い刺激をこらえ切れぬか、
細い声が唇の合わさりから切れ切れに零れだし、
背中へ回された腕が、徐々にずるりとすべり落ちかかる。
こちらからも腕を回して、支えてやってもいいけれど。
これ以上の囚縛は振り切る隙をやらないことに通じぬか。
それを思うと抱きすくめる力を入れられず、
気がつけば…そのまま双方ともに、畳の上へ横ざまに倒れ込んでいて。

 「あ、ブッダっ。」

どっと頽れ落ちた訳じゃあないが、
それでも弾みでどこかひねってはないかと案じてのこと。
先に身を起こしたイエスが、
のしかからぬよに肩の間近、畳みに直に手をついて、
愛しい人のお顔をのぞき込めば、

 「…いえす。////////」

火照ったお顔が、やや陶然としていて。
名を呼んだ口許が、
横たわってた加減から、弧を描いて見えたのが何とも罪作り。
イエスが案じてしまった理由のもう一つが、
倒れ込んだ拍子、畳の上へと広がった
彼の白いお顔を取り巻く、深色の長い長い髪でもあって。
陶然としてのこと、集中が途切れてしまったらしくて、

 「…ごめんね。///////」
 「なに、が?//////」

 だって君は、いつだって生真面目で。
 あのその、私みたいに…昼ひなかから、
 こんな不埒なことなんて考えたりはしなかろに。

 「せめて宵までって、
  我慢出来なくて、ごめんなさい。/////////」

朝はお日様とともに起きて動き出すもの、
昼は明るさに晒されるまま朗らかに過ごすもの。
宵になって陽が落ちて、
あちこちに隠れていいよな夜陰という一角が出来始めてやっと、
人目を忍ぶようなことを致してもいいのだと思うよな。
そういう清廉で、誠実真面目な人なのだろに、と。
あまりに愛しくて、それで…とはいえ、
戒律も厳しい世界の人を、
無理強いからここまで付き合わせるなんて、甘えるにも程がある。
反省しきりなまま、
白い額にかぶさりかけてた、絹糸みたいなさらさらの髪、
不器用な指先で、それでもそろりと退けてあげれば。

 「…私だって、」

ごにょりと、小さな声がして。
え?と、少しばかり顔を降ろして聞き取ろうとしたところ、

 「キミへは時々 ふしだらなことも想うんだけど。」

  ……はい?///////

耳だけ向けてたほうへ、ぐりんと顔ごと向け直せば。
こちらの視線の先には、
ぬばたまの色と見間違えるほど、深みのある瑠璃色の双眸。
その縁が頬にかけてほのかに赤らんでいて、

 「イエスのこの手で、
  今みたいに頬とか撫でられるとうっとりしてしまうし。」

ちょっぴり気怠そうな口調でそうと言い。
下から持ち上げられた柔らかな手で、
イエスの薄い頬を温かく包み込むと、

 「この素敵な人を、
  独り占めしたくてしょうがないのに、
  それはいけないと制するのがどれほど大変なことか。」

 「……………ぶっだ?/////////」

え?え? さっき飲んだの普通のミルクティーだったよね?
ブッダのにだけお酒が入ってたとか、
そんなオチじゃあないよね?(オチって…。)
キスの後から、妙に大胆不敵な如来様で。
気持ちの戒めの象徴でもあろう
螺髪が解けたからというのも多少はあろうが、
それにしたって

 “このお誘い上手風の態度は何ごと?////////”

もしかして、キスに酔ってしまったのかな。
慣れない陶酔に直に翻弄されて、
夢心地のままでいる彼なのかも。
ああでも、私はそんなに物慣れてはないのになぁ。
ご挨拶の頬にする ちうしか、実のところは馴染みもなかったのにと。
…こんなところでカミングアウトしてどうしますか、ヨシュア様。

 「イエスは奔放で、少し我儘でいてくれなきゃダメ。」

気怠そうな彼なせいだろう、
語尾が掠れていて、ほのかに低くて甘い声。

 “それだと、振り回されて大変なんじゃあなかったですか?”

いつぞや言われたことを、ちゃんと覚えてたイエス様だが、
そんなこんなを思う理性と裏腹、

 「……。////////」

ほわりと微笑うブッダのお顔に、
吸い込まれるよに惹き寄せられてしまっていて。
肩の下へと腕を差し入れ、
腕の輪の中へと取り込んだ愛しい君は、

 「…いえす。/////////」

なんて まあまあ、甘く甘く微笑うのだろか。
くっきりしたまつげの陰へ、
そおと伏せられてゆく眼差しに誘われ、
蜜の香に潤む瑞々しい口許へ、再び唇を重ねれば。
彼の側からも腕を伸ばし、
もどかしそうにしがみつく。

 独り占めしたいのはホントにホント。
 でもネ、と
 いつもそこで“後回しでいいよ”と小さく微笑うキミなのが、
 もどかしいなと言っちゃったのは、

 “最近だと、いつだったっけネ。”

思慮深いキミだから、
どちらか選ばねばならなくなったら私が困らないようにって、
そんな寂しいことを思うのは辞めてよと、
駄々を捏ねては また困らせて。

 “だって言うのにね…。/////////”

頬へと逸れて、おとがいの線を辿り、
あれからも時々は そっと触れている首元へ。
スルリともぐり込んで、唇を這わせれば。

 「あぅ…、は、…んぅ。////////」

思えば此処ほど、
過敏で危険で 無防備には出来ぬ処もなかろうからか、
さすがに微かな身じろぎをする彼であり。
こんな形では誰も触れたことがなかろう、
ある意味 究極の“秘所”。
キメの細かな肌がそれはなめらかで、
そちらから吸い付いてくるかのよう。
そんな至高の柔らかさを味わっておれば、
それでも、拒みはしないまま、
あられもない声だけはださぬよう こらえている様が、
時折のひくりという奮えから伝わって来て。

 “ブッダが我慢してるって
  人へ気づかせるなんてね…。///////”

そうまで乱れてしまうのだという事実が、
こちらの全身に熱をそそぐが。
それと同時に、

  追い詰めることになるなら、それは勘弁と

美麗なまでに陶酔しておいでの愛しいお人の頬へ、
もう一度だけ口づけ落として。

 「ごめんね、ブッダ。ありがとね。//////////」

自分がいつもいつも口にしている
彼への“アガペーと同じほどの好き”なんて
あっさりこんと霞むくらい、
どんな我儘でも聞いてくれる人。
甘えることでも甘やかしてくれる人。
ああもう、敵うはずがないじゃないのと、
あらためての幸福(降伏?)宣言を、
最愛の伴侶様へ、こっそり捧げてしまうヨシュア様なのでありました。








 ● おまけ ●



むせ返るような熱が徐々に引き、
やっと何とか、甘い微熱へまで落ち着いたところで。

 「えっとぉ。////////」

甘い方向へとはいえ、結構 取り乱したこと、
今になって自覚しちゃったブッダへは。
恥じ入って慌てふためいてしまうその前に、
ほろ酔いの間中、
その懐ろにぎゅうと抱えていてくれた伴侶の君が、

 「もうもうブッダったら、
  どこまで私を甘やかすのーvv///////」

もう一回と胸元へギュッと抱え込んでしまって、
この話はもう終しまいということか。
いつもの伝で、ふふーと笑ってチャラにしてくれるところが、

 “…ああ、やっぱり敵わないなぁ。///////”

頼もしい懐ろに頬を埋め、切ない苦笑を噛みしめる。
そんなブッダ様だったれど、
堅くきっちり螺髪に結われていたものが、
甘い愛咬の間に、音もなくほどけていたそれ。
深みのある濃色に濡れたような艶も妖冶な、
絹糸を思わせるさらさらした髪を、
それはそれは大切そうに、
指先でそおと触れてはうっとりと頬笑んで。

 「私、ただいまって声かけが大好きなんだ。」

 「んん?」

いやに唐突なことを言い出すイエスなのへは、
何のお話?とお顔を上げて見せ、

 「今日は一緒に出掛けてたけど、
  いつもブッダが待ってるところへ帰るわけでしょ?」

 「うん、そうなるね。」

二人で暮らしているのだから、そういうことになるのは当然。
何を今更という意味から苦笑したブッダだったのだけれども。
微妙に困ったような笑い方だったの、
見せられちゃったイエスとしては、

 「お留守番させてばっかで悪いけど。」

そんな一言を付け足しており。

 何言ってるの、
 イエスが待ってるときだってあるじゃない。

 でもでも、ブッダのお出掛けは
 商店街へのお買い物でってのばっかでしょ?

ちょっとそこまでっていうのじゃあなくて、
半日とか朝のうちに出掛けて、夕方帰って来るのとか。
そういう“遠出”をしていて、
そこからまっしぐらに帰ってきた折の、

 ただいまと掛ける声と、
 それへと返って来る“お帰り”の声があるってことが

 「凄っごく凄っごく嬉しいのvv」

ふふーっと、隠しきれない笑みこぼし、
いつも“お帰り”と言ってくれる、
それはそれは大好きなお人をうっとりと眺めやる。

 「あ、勿論、ブッダへお帰りって言うのも好きだよ?」

そうと付け足したイエス様。

 「ブッダから“ただいま”って言ってもらえるなんて、
  ブッダが帰って来たよって言うお家だなんて、
  物凄いことだもんねぇvv」

 「物凄いってのは何だよぉ。////////」

大仰だなぁ、そんなことないもん、と。
互いに反発し合うような言いようを交わしつつ、
でもでも態度は全くの裏腹もので。
すぐの間近になったお互いの眼差しに自身の眼差しを絡め合い、
探るように、それでいて誘うように見つめ合って。
やはり間近になってた唇を、
吐息でくすぐり合っては牽制していたのも束の間で。
互いの体温が交じり合うほどの、至近にあった愛しい果実。
なんで味あわないでおれましょかと、
それは自然なことのよに、
触れ合ったそのまま、やさしく食み合い。
狭間に立ってるおコタの脚が、微妙に邪魔なのも何のその。
窮屈なのも抱擁の一部と、堪能し合っておいでのお二人だったそうな。






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  *罰当たりなものを、失礼いたしました〜。(恥//////)


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